見出し画像

【インタビュー】働くモチベーションが低下する背景とは。「タニモク」が貢献できること(前半)

「タニモク」は3~4人1組で目標をたてあうことで、自分の活かし方をみつけるワークショップです。
イベント ▶マニュアル ▶目次 ▶活用事例

こんにちは!「タニモク」編集部です。
noteでは、さまざまな団体や個人にインタビューを行い、「タニモク」の効果などをご紹介しています。

今回お話を伺ったのは、パーソル総合研究所の小林祐児さん。
パーソル総合研究所は、2016年よりミドル・シニアに関する調査研究を進め、調査結果を活かしたノウハウ提供を通じてミドル・シニアの活躍促進に貢献されています。

そこで今回は、「タニモク」プロジェクトリーダーの三石原士がインタビュアーとなり、インタビューを実施。
データをもとに「働くモチベーション」のポイントを解説していただきつつ、「タニモク」の活用方法を探っていきます。

前編では、小林さんに40代・50代の働くモチベーションがどのように変化していくのかや、施策の鍵についてお話しいただきました。

【お話しいただいた方】
小林祐児さん
パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員。
NHK放送文化研究所、市場調査会社を経てパーソル総合研究所に入社。
2021年、総務省の「ポストコロナ時代におけるテレワークの在り方検討タスクフォース」に外部有識者として参画。
著書:『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、  『ミドル・シニアの脱年功マネジメント』(労務行政)他

ミドル・シニア層の働くモチベーションの傾向と課題

ー(以下、三石)「タニモク」には、「今後のキャリアや人生について考えるきっかけにしたい」と、40代・50代の方にもたくさん参加いただいています。一方で、近年は「ベテラン社員」や「ミドル層スタッフ」の方の「働くモチベーションの低下」が繰り返し課題として挙げられることも多いように思います。なぜ「働くモチベーション問題」は再生産されてしまうのでしょうか?

小林さん:日本の人事管理のあり方は世界稀にみる発明で、1980年代までは抜群に機能していました。ところが、中高年には厳しい面も持ち合わせたシステムでもあるため、その弊害が近年課題として浮き彫りになっているんです。

(パーソル総合研究所「働く1万人の成長・就業実態調査(2017)」、佐藤博樹、2002年「キャリア形成と能力開発の日独米比較」「ホワイトカラーの人材形成」東洋経済新報社所収より小林さん作成)

小林さん:左のグラフを見ると、日本では、42.5歳を機に、「出世したいと思わない」人と「出世したい」人の割合が切り替わります。

また、右の図を見ると、日本は「昇進の見込みがない人が5割に達するまでの年数」が他の国と比べて長いこともわかります。多くの先進国では30歳前後で出世をあきらめるのに対し、日本はそこからさらに10年も出世の意欲がモチベーションになり続ける。これはとても平等主義的であり、競争主義的な仕組みによるものです。

小林さん:日本の新入社員は4月の入社から一斉に研修を受け、一般社員から上層に上がっていく訳ですが、特徴的なのは、同年代の同期と職務横断の異動をしながら、出世競争を続けていくことです。言い換えれば、最初の職務に関わらず、努力をすれば課長や部長、場合によっては役員にまでなれるかもしれない道が拓いているのが日本なんです。

それに対して、諸外国のキャリアは、もっとエリート主義的で選抜主義的です。例えばアメリカはMBA(経営学修士)の資格を持っていないと役員になれない、とても学歴主義的な社会です。フランスなどでも、日本では考えられないことですが、幹部層候補になる人たちは、最初からマネージャーのポジションに入ります。
新入社員が考えるのは「小さい会社で最初からマネージャーをやる」か「大きい会社でサブリーダーから始めるか」で、入社時にどの職務のどのポジションに入るかで出世の天井が決まっているんです。「この会社ではここまでの出世しか望めないな」というのがすぐにわかるので、あきらめられるし、ワークライフバランスがとれるとも言えます。

(パーソル総合研究所「働く1万人の成長・就業実態調査(2017)」)

小林さん:日本の話に戻ると、出世への意欲がなくなった人は、次に「キャリアをどう畳むか」を考え出します。右のデータを見ると、キャリアの終わりを意識するのは45.5歳。出世というエンジンがなくなった途端に、引退モードになることが多いんです。このように、平等主義的・競争主義は、さまざまな副作用を持っていると言えます。

小林さん:まず、企業主導の職務異動が行われるので、日本人は同じことを2、30年続けるというキャリアプランをたてられません。そうすると、「職業的なアイデンティティをもてない」「計画的なキャリアが描きにくい」といった副作用が生まれます。また、OJTを通して現場で学んだ方が合理的なので、学びが職場に偏ってしまうんです。

「出世」と「報酬上昇」の願望を長く抱き続けられる一方で、20年間もこの状態を続けていくことが、その願望が尽きたタイミングでのモチベーションの低下につながっています。


ミドル・シニア層の課題は、その世代だけの課題ではない

小林さん:企業内にモチベーションが下がっている人がいる場合(ここではミドル・シニア層)、多くの企業は「モチベーションを上げるためには何をしよう」と、その人の問題にしてしまいがちです。

つい「個人の課題」「心理的な問題」といったところに焦点を当ててしまうんですが、実は、「モチベーションがなくなること」ではなく、「シニアになるまでの過ごし方」がポイントなんです。

小林さん:本当の問題は、出世競争を20年間継続し、出世や報酬の上昇がなくなったときに、代案を持ちにくいことです。これは「代案を持っていなくても働き続けられる」という、よくできた人事システムゆえですが、多くの企業は氷山の表層だけを問題視し、構造に目を向けずにいるので、表面上の課題に対する解決策になりがちです。

表層部を刈り取るだけではまた同じ課題が上がってきますし、それが繰り返されます。構造が変わらなければ、現在の若年層や若手中堅層も、いずれは当事者になる可能性が十分にあります。

ーなるほど。組織の制度や仕組みを変えていかないと難しいということですね。では、個人の課題として何かポイントとなることはありますか?

小林さん:キャリア論では「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(期待されていること)」を重ね合わせましょうとすることもありますが、先ほど言ったように、このWill(やりたいこと)のなさこそが問題だと思います。仕事上のWillを持っている人ってそれほど多くないんです。
難しいのは、そうしたWillの無さを「問題だ」と指摘する人のほとんどが「Willがある側」であることです。そうなると、「Will・Can・Must」の図式はどうしても「お説教」の構図になってしまいます。「お説教」スタイルの処方箋は、処方箋ではありません。個人としても、こうしたWillのなさをどうクリアしていくかがポイントです。


施策の鍵は「変化適応力」

ー具体的には、どういったことができるでしょうか?

小林さん:そういった構造を解く鍵として、「変化適応力」が挙げられます。

小林さん:「変化適応力」を考えるうえで、一度「心理的資本」という言葉を押さえておきたいと思います。心理的資本とは、希望を持っているとか楽観的であるとか、ポジティブな心理的状態のことです。

(フレッド・ルーサンス 他「こころの資本」)

小林さん:なぜ「資本」かというと、「今だけ楽しく、次の日には憂鬱」といった一瞬の感情ではないからです。また、個人の性格のように変えにくいものでも、不変的なものでもない。変化も蓄積もできるし、開発の余地があるというのが心理的資本という言い方の肝ですね。

私たちは、心理的資本の1つ、「自己効力感:Efficacy」に注目しました。

(パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」)

小林さん:ここで、「変化適応力」と「社内活躍見込み」の、年齢との関係を見てみます。「変化適応力」とは、変化に対する「自己効力感:Efficacy」のことです。会社やビジネス、技術が変わっても「自分ならなんとかできる」という、自信に近いものですね。先が読めず、「こういう変化がある」という予想をしにくくなった昨今、自己効力感のない人は変化に適応することができません。

一方の「社内活躍見込み」は、社内活躍への効力感です。「出世できる」「組織のなかでこの後も中心的になれる」という感覚です。この「変化適応力」と「社内活躍見込み」は、2つとも年齢が上がるとともに低下するということがわかっています。

(パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」)

小林さん:ただ、我々の研究では、「社内活躍見込み」よりも、「変化適応力」の方がポジティブな影響が強いことがわかりました。特にミドル・シニア層では、「変化適応力」が「個人のパフォーマンス」にも「学び」にも紐づいていて、変化適応力が高い人は、役職から退いて担当職務が変わる「職域変更」も積極的に迎え入れることができるんです。

一方で、「社内活躍見込み」が一番効いていたのは、「組織コミットメント」でした。

(パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」)

小林さん:20代では「変化適応力」も「社内活躍見込み」も同じくらいパフォーマンスにプラスです。しかし、年齢を重ねるとともに「社内活躍見込み」はパフォーマンスに直結しなくなり、逆に「変化適応力」は影響力を上げていきます。

なにか思いがけない変化があっても「自分なら大丈夫」と思い続けられる、自己効力感の高い人ほど活躍する。これがミドル・シニアまでキャリアや人事管理を考えるうえでのヒントにもなると思います。


「変化適応力」を高めるには

(パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」)

小林さん:さらに、変化適応力に影響を与える心理には、「促進する心理」と「抑制する心理」があることもわかっています。

小林さん:具体的に示すとこのような問いになりますが、細かく分析していくと、この2つの心理が人事管理の在り方に紐づけられていることもわかりました。

(パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」)

小林さん:例えば、「社内の職務ポジションがオープンになっていること」や「公募型の異動」は「目標達成志向」と正の関係にあり、「シニアへの教育研修の手厚さ」は促進する心理全体に効いています。しかし、日本では研修の機会が新人向けに偏っているという点が非常にもったいないですね。

一方で、「専門性の尊重」は「現状維持志向」を助長します。専門性を認められると「現状のままでいい」という考えになるため、長期安定雇用の構造も相まって「興味の柔軟性」を抑制しがちです。変化適応力を上げるという意味では、専門性を突き詰めるよりも、社内のジョブマッチの方が有効だと言えます。


後半に続きます

働くモチベーションの低下問題は個人ではなく人事管理の構造にあること、モチベーションを維持するためには「変化適応力」を蓄積することが重要であることをお話しいただきました。インタビュー後編では、もう1つの鍵となる「キャリアの対話」と、「タニモク」の活用方法について伺っていきます。後編もぜひご覧ください。

「タニモク」についてもっと知りたいと感じた方は、公式ホームページもご覧ください。
定期的に専任のファシリテーターが実施する「タニモク」を開催しているため、興味をもった方はぜひ体験してみてくださいね。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!