【インタビュー】働くモチベーションが低下する背景とは。「タニモク」が貢献できること(後半)
こんにちは!「タニモク」編集部です。
noteでは、さまざまな団体や個人にインタビューを行い、「タニモク」の効果などをご紹介しています。
前編に続き、「働くモチベーションの低下問題」について、パーソル総合研究所の小林祐児さんにお話を伺っていきます。インタビュアーは、「タニモク」プロジェクトリーダーの三石原士が務めました。
後編では、「キャリアの対話の重要性」と、「タニモク」の活用方法についてお話しいただきます。
もう1つの鍵は「キャリアについての対話」
ー(以下、三石)ミドル・シニア層が活躍するためには、「変化対応力」が重要と伺いました。もう1つの鍵は、「キャリアについての対話」だそうですね。
小林さん:はい。このグラフを見てください。仕事人生を他者に話す機会は、40代以降、急激に下がるんです。
小林さん:背景に何があるかというと、「人は年をとると交友範囲が狭まっていくこと」です。こちらのグラフでもわかる通り、交友範囲は、年齢が上がるとどうしても少なくなってしまうんですね。
小林さん:一方で、1つめの鍵である「変化適応力」は、キャリアについて人と話す経験によって上がることもわかっています。さらに、「誰に」「どのように」話すのかがポイントです。
小林さん:キャリアについて他者に相談したとき、「変化適応力」が向上したのは「上司」「キャリアアドバイザー」「仕事関連の友人・知人」の3つでした。
小林さん:なぜその3つが「変化適応力」にプラスなのかというと、「客観的な意見をもらうこと」ができるからです。
相談をするとき、大抵の人は「共感されたい」「応援されたい」という気持ちに偏りがちです。しかし、そこで「でもそれってさ」と少しスパイシーな客観的な意見をもらうことが、変化適応力の向上には役立ちます。逆に、「正解を教えてもらうこと」や「共感してもらうこと」はマイナスに働いていました。いくら居酒屋で同僚と仕事の愚痴を言っていても、変化に対する効力感はつかないということです。
もう1つのポイントは「自己開示の深さ」です。相談で自分のことをどれだけ話せるかが、「変化適応力」に影響することもわかっています。
小林さん:ただし、ミドル・シニア層の方には、自己開示が苦手な人も多いです。グラフを見ても、自己開示の深さは、40代から一気に低下しています。
小林さん:自己開示が浅いと、話す内容が不満やこれまでの実績となることが多く、「過去志向」「自分志向」になりがちです。反対に、深ければ「未来志向」「社会志向」になっていきます。対話を通じてこの自己開示をいかに深めていけるか、世の中に対して未来の自分が何をできるのかを話せるかが重要です。
「想い」は「話すこと」によってつくられる
小林さん:もう少し理論的に説明するために、「ナラティブ・アプローチ」を紹介します。「ナラティブ・アプローチ」とは、右の図のように、"語ることによって語るべきことが「創られる」"という考えのアプローチ方法です。
一般的なコミュニケーションのイメージは、左の図のように、"伝えたいことややりたいことがあるから、それを相手に「伝える」"という、「指示・伝達」の関係にあります。
一方で、ナラティブ・アプローチで重視されるのは「対話」です。自己開示には「返報性の原理」があって、人は自己開示をされると、自己開示をし返したほうがよいという規範意識が働きます。これによって会話のキャッチボールが生まれると、徐々に自分のWill(やりたいこと)が客体化されたり、より伝えたいことができあがったりするんです。これが、いわゆる「世界の語り直し」になります。
小林さん:他者との会話によって物語を語り直すことで、「ドミナント・ストーリー(不満のストーリー)」を「オルタナティブ・ストーリー(前向きなストーリー)」へ変えることができる、というのがナラティブ・アプローチの考え方です。ここでようやく、キャリアに対する姿勢を前向きに変えることができます。
小林さん:もう1つおさえておきたいのは、「組織中の対話」と「組織外の対話」は構造が違うということです。
組織の中で組織のことについて話をすると「閉じた語り」になってしまいますが、組織外の他者と話すと、他の組織と比べたり、趣味や家族など他の要素が入ってきたりするので、「開いた語り」になります。
小林さん:主体的なキャリア構築の重要性が叫ばれ続けて20年ほどになりますが、実際は組織の中での「対話」への取り組みは、手が届いていないというのが現状です。キャリアカウンセラーの配置や相談窓口の設置は、企業にとってはコストがかかりますからね。
しかし、そもそもの対話の仕掛けが少なすぎることが、個人の「Will(やりたいこと)」のなさにつながりますし、ひいては「変化適応力」が上がらない、それどころか下がってしまうことになっていまいます。それが「働くモチベーションの低下問題」の大きな1つの要因です。
自分の意思があることの重要性
ー異動や副業(複業)、転職なども含めて、新しいことにチャレンジするのはとても大事だと思いますし、自分の中では、"行動していると機会が自然にやってくる"という感覚もあります。「変化対応力」を高めるためには、新しいことを小さいながらも進めていき、その感覚を養うことが大事なのではと考えたのですが、いかがでしょうか?
小林さん:異動や変化を、組織と自分のどちらが仕掛けたか、という点はすごく重要だと思います。
日本人にキャリアの感覚を聞くと、大半が受け身の姿勢で、周りからやってくるという感覚を持っています。「置かれたところで咲きましょう」が日本人の多くのキャリア観でしょう。ジョブローテーションは、自分の意思ではないところにキャリアのチャンスや機会がやってきますが、「新しい部署で意外と楽しく仕事をしています」という人も多いんですよ。
ただ、それはWill(やりたいこと)がなくても充実感を得てしまう落とし穴です。これこそがモチベーション問題が繰り返される原因だと思っています。キャリア選択に自分の意思が少しでも入っているかはとても重要で、同じ異動でも、自分の意志が反映されたジョブマッチング型の異動の方が、「変化適応力」を高めるには効果的だということもわかっています。
小林さん:年功序列・長期安定雇用の副作用として、20年以上の出世競争の後に、その後はキャリアを自分でつくらなければならない状況が生まれるのが日本です。だから、キャリアについての対話は、ミドル・シニア層に限らずどの世代にも必要だと言えます。
「タニモク」ができること
ーWill(やりたいこと)を見つけるためには、「ナラティブ・アプローチ」としての対話が必要だとお話しいただきました。「タニモク」にはファシリテーターのガイドで「自分が話をする」「相手の話を聴く」というそれぞれのターンがあるので、安心して話せる環境がある。そして、話をしてもらったり聴いてもらったりすると、それに対してお返しをしたくなる「返報性の原理」が働くので、そこがキャリア支援にもうまくかみあっているのではないかと感じました。
小林さん:そうですね。対話の仕掛けという観点からも、「タニモク」は対話のきっかけづくりや自己開示に非常に有効だと思います。
ーありがとうございます。40代・50代は自己開示をしにくいという点も踏まえると、年代をまぜたグループにするとか、フラットに話せる場づくりをセットにすると、相互効果があってよさそうですね。
小林さん:そのあたりの仕組みや仕掛けも重要ですね。面識のないミドル・シニア層の方だけでグループを構成してしまうと、かたい、表面上の話しかできない可能性もあるので、自己開示のあり方や仕掛けをどうつくっていくかはポイントだと思います。
ーあまりにも遠い位置関係にいる人同士では仕事内容がわからず、開かれた語りにまで落とし込めない可能性もあるので、近すぎず遠すぎない絶妙な距離感も大切だと感じました。その辺りをコーディネートできると、「タニモク」がより機能しそうですね。
小林さん:そうですね。「わかってもらえないだろうな」と思いながら話すと自己開示が深まらないので、開いた環境に身を置くこと、1度開いた部分を忘れないことが重要です。
ー「タニモク」では最後のまとめで、「ワクワクした感情を忘れないうちに言葉に残してください」そして「アクションをしてください」とお伝えしています。そのような意味では、Will(やりたいこと)の小さな火種を見つけて、それに合わせて行動するきっかけになるのではと改めて思いました。それから、対話を通して前向きなストーリーにできることも大きいですね。
小林さん:例えば転職にしても、前向きな動機が必要なんですよね。日本の転職は不満のリセットになってしまっているので、それをどこか前向きなものにして転職活動を終えないと、結局その人は転職後の苦労をうまく乗りこなせません。そのときにも参考となるのが、「ナラティブ・アプローチ」です。「じっと手を見る」タイプの熟考や内省では難しい。他者との対話の機会を増やして変化対応力を高めることが、「働くモチベーションの低下問題」を解決する鍵であり、変化の時代を生き抜くための資本になると思います。
「タニモク」編集部より
小林さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
自分の強みや活かし方が見つかる「タニモク」は、キャリアの対話のきっかけづくりにもご活用いただけます。
ご自身のキャリアに悩んでいる方、組織内での施策に悩んでいる方は、ぜひ「タニモク」を実施してみてはいかがでしょうか。
ミドル・シニア層へ向けた「タニモク」の活用方法は、こちらのコラムでもご紹介しています。