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【活用事例】押し隠していたものをオープンにするきっかけに『高校生×「タニモク」』

「タニモク」は3~4人1組で目標をたてあうことで、自分の活かし方をみつけるワークショップです。
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こんにちは!「タニモク」編集部です。

他人に目標をたててもらう「タニモク」は、年齢や肩書きに関係なく、利害関係がない人同士であれば誰とでもフラットに実施できます。
noteでは「タニモク」を実施された方にインタビューを行い、「タニモク」をどのようなシーンで活用されているのかや、参加者の気持ち・行動にどのような変化があったのかなどをご紹介していきます。

今回は、2017年より高等学校の授業内で「タニモク」を実施されている森田直之先生に、高校生向けの活用方法や得られた効果についてお話しいただきました。


実施団体と参加者

◆団体名:東京都立科学技術高等学校
 ・2001年開校。東京都初の科学技術科を持つ進学型専門高校
 ・2018年まで文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールに指定
 ・2018年、東京都版スーパーサイエンスハイスクール「東京都理数リーディング校」に指定
 ・現在、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールに指定
◆実施時期:4月(新年度が始まる時期)の他、年末など
◆実施頻度:年2回
◆活用シーン:新しいクラスでの関係構築のきっかけとしてオフラインで実施
◆対象者:1~3年生の全生徒(学年ごとに実施)
◆参加人数:1学年210名×3学年 計630名



実施目的

・人間関係の早期構築
・分野を超えた関わりのきっかけ作り

森田先生:1年生に向けては、自己紹介と自己理解・他者理解を目的に実施しています。1学年が200名以上もいると話したことのない人も多いし、部活や所属も違う。さらに、2020年は新型コロナウイルスの影響で入学の時期が遅れました。「どういうことを目指して入学したのか」「今後はどうなりたいのか」などを「タニモク」で話すことで、早期に関係性が生まれて欲しいと考えました。

また、私たちの学校では毎年クラス替えが行われます。現在は、新しいクラスのまとまりを生むためにも、全学年で年度初めに「タニモク」を実施しています。年末など年度の途中で再度実施し、年に2回「タニモク」ワークショップを行っていることになりますね。

210325_タニモクnote図版_インタビュー記事【東京都立科学技術高等学校さま】01



実施前に感じていた課題

・主体性に欠けることがある
・分野を超えた関わりが難しく、専門分野ごとに分断してしまう

森田先生:「科学技術」という分野はマニアックな要素が強いので、中学生までは自分の好きなことや趣味を周囲に理解してもらえなかった、隠していたという生徒も多いんです。その報われなかった想いから、「他者への興味が薄い」「主体性が低い」というイメージがついてしまった生徒もいるのではないかと思います。せっかく同じような趣味・趣向の人たちが集まる高校に入学したのだから、「タニモク」のワークショップで隠していたものをオープンにし、「この学校では理解してもらえる」「やりたいことができた」という高校生活にしてあげたいという想いがありました。

ークラスはどのように編成されているのですか?

森田先生:クラスは「機械・制御工学系」「電子・情報工学系」「化学・バイオ系」の3つの分野がまざって編成されているんです。2年生からはそれぞれの分野に分かれ、大学のゼミのように課題研究も行います。本来は、課題に行き詰まったときに分野が違う生徒や先生との会話からヒントが得られるーーそんな経験が自然に発生してくれたらと思うのですが、難しいのが現状です。色々な人を交えて話をしてほしいことと融合を目的に「タニモク」を利用できないかと考えました。


実施内容

・1コマ50分の授業を2コマ使用して実施
・1グループは3~4名で構成
・ファシリテーターは4名の教員(メイン2名、時間管理2名)

<一人ひとりの時間の進め方>
1. 主人公の自己紹介と質疑応答(3分)
2. 他の人が主人公の目標を考える(5分)
3. 他の人が主人公にプレゼンをする(4~8分)

森田先生:基本的な時間の進め方は公式の流れと同じですが、実際にやってみると、高校生には長いと感じました。無理にルールで抑えようとすると生徒たちが嫌がる可能性もあるので、12~15分に収まるように短くアレンジしています。

ーファシリテーターは先生方が務められているとのことですが

森田先生:ファシリテーターをするときは、「ワークショップに参加しない」「会話に入らない」ことを教員間でルール化しています。教員同士でも定期的に「タニモク」を実施するので、いま校内にはファシリテートできる教員が14、15人いるんですよ。実際に体験することは、今後のクラス運営にも活きますしね。授業の一部に取り入れている人もいます。生徒も教員も「タニモク」を行って相互理解を進めることが、学校のカルチャーに繋がっているのかもしれません。



得られた効果

・人間関係の早期構築に役立った
・コミュニケーションがとりやすくなった
・アンケートでは約9割が「楽しい」「またやりたい」と回答
・2回目以降は進行がしやすい

森田先生:人間関係の早期構築に繋げられたのは、「タニモク効果」と言っていいと思います。それまで隠していたものをオープンにでき、共感され、共通の話題がその場で生まれる。しかも、自分のマニアックな話をしても、残りのメンバーが誰も否定しないんです。「これでいいんだ」と自分自身を承認でき、受け入れてもらえる関係性を作ることから新学期をスタートできたのは、非常に大きな効果でした。

生徒自身が自己開示しているから、教員もその子の強みがわかるんですよ。そうすると、あらゆる場面で、生徒が輝く場を提供できる。
例えば、修学旅行で台湾へ向かう飛行機が遅延したことがあったんです。そのとき、担任が魚好きな生徒に「台湾の魚の話をしてよ」と振ったら、その生徒は2時間も話をしてくれました。これは、担任やクラスメイトが生徒の強みを理解していたから実現したのだと思っています。

ー多くの生徒さんが「またやりたい」と回答していただいてとても嬉しいです

森田先生:高校生なので多少リードの必要はありますし、思春期だからこそ、中には「自分を開示したくない」という生徒もいます。それでも多くの生徒が「またやりたい」と回答してくれるので、このような場の需要はあると感じています。

実際、1回目よりも2回目の方がうまくいったという生徒が多く、回数を重ねる方がうまく活用できる印象です。初回は3人目くらいからやっと盛り上がってくるんですが、2回目は1人目から盛り上がる。こちらも、1回目こそクラスごと出席番号順にグループを作りますが、2回目は2クラスをまぜ、くじ引きでグループ分けをするなど、横のつながりを広げる工夫をしています。


開催時に意識したポイント

・公式よりも時間を短く設定し、自己紹介と質疑応答を同じ時間で行う
・BGMを利用した時間管理
・事前課題で「自分の今の状況」を書き出しておく
・ファシリテーターが実際に体験してみた感想や、たてた目標を話す

森田先生:「自己紹介の時間」「質疑応答の時間」と項目を細かく分けてしまうと会話が止まってしまうので、自己紹介と質疑応答の時間はまとめて3分とし、生徒には「相手が喋っているときに質問してもいいよ」と伝えています。BGMを流すとワークが止まらない効果や、BGMを切ると自然に会話も終わるというメリットがあるので、ハウスやパンクなどを流しています。

ー事前課題を出されているとのことですが、絵を描くことが苦手な生徒さんにはどのようなフォローをされていますか?

森田先生:公式の絵を参考に見せはしますが、絵に限らず「一番やりやすい書き方でいいよ」と伝えています。箇条書きでも、文章でも、暗号でも、自分で説明しないとわからないようなものでいいと。やったことのないものや苦手なものに抵抗があるのは当たり前なので、「この程度ならやってみてもいいな」と思ってもらえるようにしています。

ワークショップでは、私がたてた目標を話すこともあります。
例えば、2017年に「タニモク」に参加したときの目標は『うざくなる』です。「全面的な肯定よりも反対される方がやる気に繋がる」という話をグループのメンバーに話したら、「うざいくらいに動き回れば、自然と敵も出てくるでしょう」と言われたことがきっかけでした。

この話をすると、生徒は「そんな程度の目標でいいんだ!」となり、イメージがしやすいようです。マニュアルよりも、実際にやった肌感覚を大切にしています。ただ、「僕が若い頃はね…」と自分の話をする・押し付けるクラッシャーにならないようにだけは常に気をつけています。


参加者の声

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森田先生:生徒からは「違うメンバーでやりたい」「2、3人でやる意味がわかった」などの声が多くあがり、「タニモク」の有効性を感じています。これからも、コミュニケーションや課題発表などの場として「タニモク」を活用できたらと考えています。



担当者のコメント

・学校と行政の交流を行いたい
・課題研究発表会への応用につなげたい

ー今後、「タニモク」を活用して実施してみたいことをお聞かせください

森田先生:今一番やりたいことは、学校の課題解決に行政を巻き込むことです。実は、教員同士での関わりだけでは、課題はずっと同じなんです。当校の事務職員は東京都の職員が務めているので、事務と教員が「タニモク」をやって共通課題をどう解決していけるかを話すことができれば、実際の行動プランが変わるのでは、と期待しています。可能であれば生徒を巻き込んで、実際の生徒の声・要望を聴いてもらいたいですね。

ー最後に、この記事の読者や、教育現場で「タニモク」をやってみたいと考えている人へメッセージをお願いします

森田先生:生徒が自分自身で過ごしやすい環境を作るには限界があります。楽しい学校生活をプロデュースする、場の提供をすることも教員の役割であり、私はそのためのツールとして「タニモク」を最大限活用させてもらっています。

この記事を読んでいる方の中には「うまくいかないのでは…」と不安な人もいるかもしれませんが、最初からうまくいくことの方が稀です。私も、試行錯誤しながらここまでやってきました。回数を重ねて、個々の課題をどのようにしたら解決できるか試してみたら違うオプションがついてきた、ということもあるかもしれません。

相談にのってくれる窓口はあるので、まずは自分が実施してみて、おもしろいと感じたら躊躇せず取り入れたらいいと思います。先生が楽しんでいれば生徒もおもしろがってくれるので、先生自身が楽しむことが大切です。



「タニモク編集部」より

森田先生、お話しいただきありがとうございました。生徒さんの心理的安全を確保したうえで学習に進んでいくための道筋を作るーーそのツールとして「タニモク」をご活用いただき、とても嬉しく思います!

対象が高校生ならではのアレンジや、継続的に実施していく中で生まれた工夫、今後の展望についてもお聞かせいただき、編集部としても「タニモク」の可能性を改めて認識することができました。これからも「タニモク」を通じて、年齢や職業を問わず、皆さんの明日がちょっとよくなるお手伝いができたらと思います!

このnoteでは、今後も「タニモク」体験記事や活用事例などをご紹介していきます。
”「タニモク」やってみたよー!”という方はぜひ「#タニモク」をつけて記事をアップしていただけると嬉しいです。

また、ご覧いただいたように「タニモク」は自由度の高いワークショップですので、個人だけでなく、企業や学校での研修やワークショップなど、さまざまなシーンで活用できます。気になった方はぜひ「タニモク」を実施してみてくださいね。

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