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【イベントレポート】「タニモク」フェス DAY2:パーソル総合研究所 小林祐児さんスペシャルトーク「学びと変化のための“対話 ”効果」

「タニモク」は3~4人1組で目標をたてあうことで、自分の活かし方をみつけるワークショップです。
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こんにちは!「タニモク」編集部です。
2024年1月10日(水)・11日(木)に、「タニモク」フェスを開催しました。今回のテーマは「1on1や研修だけに頼らないキャリアオーナーシップの向上」。オンラインで2DAYSにわたり実施しました。今回レポートするDAY2では、パーソル総合研究所の小林祐児さんが登壇し、「学びと変化のための“対話 ”効果」をテーマに話しました。その内容をお伝えします。


■登壇者

パーソル総合研究所上席主任研究員
小林祐児さん


※以降は小林さんがお話したものです。


■会社が望む「学びと自律」

日本企業は人材投資を減らし続けてきました。それが今、反転しそうな流れがあり、「リスキリング」「キャリア自律」「人的資本経営」などが聞かれるようになりました。つまり、企業は社員に対して「学んでほしい、自律してほしい、成長してほしい」と望んでいます。

■自律しない、学ばない個人

一方で、現実はそう簡単にいきません。人材投資をこれまでずっと抑制し、人事管理の根本は変化していないので、個人側も変化しません。下のグラフは日本における「年齢別のキャリア自律度」です。

「自己啓発」や「社会学習」といった主体的な学びは年齢を経るごとに低くなっています。それに併せて、キャリア自律度も年齢と共にぐっと下がっているのが現状です。
また別の角度から見てみましょう。下のグラフは「社外学習・自己啓発『何も無し』の割合」を各国で調査したものです。

日本人は1位です。2位のオーストラリアのほとんど2倍の52.6%の働く大人が本も読んでいない、という結果でした。
こんな状況でどう学びや自律を推進していくのか。国でもリカレント教育や生涯学習といった手を打ったものの、学ぶ人がどんどん減っているという中長期的なデータもあります。つまり会社側が「社内公募」「副業」「自己啓発」「越境」「キャリアカウンセリング」と施策を打ち出しても、結局個人は自律しないし学ばない、多くの人に届かないというのが現状です。


■届かないキャリア施策を届けるには?

キャリア施策は届きにくい状態から再スタートを迫られています。その最大課題は「変わってくれない」「変わらない」。特に高齢化が進んだ組織ではこの課題が重くのしかかってきます。この「変わらなさ」を科学的に紐解いてみましょう。
それは心理的資本という観点です。個人が持っているポジティブな心理的な状態は、ある種の資本概念、財産として捉えるという考え方です。例えば「希望を持っている」「自己効力感がある」「レジリエンスが高い」「楽観性がある」という4つ。こうした状態にある個人は働くことに関しても、ポジティブであるということです。

■「変化適応力」は年齢と共に低下

また、先ほどの「変わらない」と紐づけて考えると「変化適応力」がキーになってきます。下の図は「会社、ビジネス、環境が変化しても自分は活躍できると思えること」を年代別に表したグラフです。

これも年代別に見てみると、年齢を重ねるごとに下がっています。


個人パフォーマンスへの「変化適応力」の影響

では変化適応力が仕事における「個人パフォーマンス」にどう影響しているのか、ほかの数値と比べてみましょう。それは「社内活躍見込み」、これは会社で活躍、または昇進できそうという効力感です。

比べてみると「個人パフォーマンス」に関しては、「変化適応力」の方が「社内活躍見込み」より明らかにプラスに影響していました(黄色枠)。また「学習手段の幅広さ」にも紐づいています(青枠)。学びについてはどちらが因果関係なのか難しいところですが、より学んでいる人のほうが変化適応力が高いといえるでしょう。
さらに、「個人パフォーマンス」に「変化適応力」と「社内活躍見込み」の与える影響を年代別に見てみましょう。

20代は、「社内で活躍できること」も「変化があっても活躍できる」が同じくらいの影響度合いです。しかし30代以降は差がついてきます。つまり、「社内の活躍見込み」を与えつづけても、あまり個人のパフォーマンスに直結しない。一方で、社外での変化適応力を落とさないことが結局社内でのパフォーマンスを出す人材になる、そして年齢が上がってもプラスの影響を与え続けられるのです。


変化適応力の背景にある心理

また、違う角度から「変化適応力」を見てみましょう。少し抽象度が高いですが、変化適応力を促進する背景にある心理はどんなものかということです。

その背景には「目標達成志向」「挑戦への意欲」「興味の柔軟性」があるということが分かってきています。


■社内で「変化適応力」を育むには

今までの話を総合すると、「どうやら、この変化適応力が大事そうだな」と感じられると思います。では、「変化適応力」にはどんな人事施策が影響するかが気になりますよね。その調査をお見せすると、

「社内のジョブポジションが従業員にとって見える化されていること」「組織目標と個人目標がつりあっていること」「公募型の異動」などがプラスに働くとわかりました。逆に言えば「企業主導型の異動転勤が多い」ということは、取り残され感や能力不安が高まり、変化適応力を落としがちだと言えます。
しかし、「公募型の異動制度」や「手挙げ式の研修」をいれるだけでは、個人が変わることはないでしょう。そこで、一番下にある要素「キャリアについての対話」がポイントになります。「対話」は変化適応力の背景にある要素に全般にプラスに働きます。そこで対話をベースにした「キャリア施策」を全年代に行うことを提案したいです。

それが、中央に置いている「キャリアについての対話と思考の機会」です。この対話についてもう少し掘り下げます。キャリアの中で大切なコミュニケーションは会議の中で行われるような「指示・命令」や、ディスカッションのような「討論」や、何かを決める「議論」でも、目指すものがない「雑談」でもありません。これは「創り変える」コミュニケーションとしての「対話」を指しています。

またこの対話を、誰と行うと変化適応力にプラスに働くのかを見てみましょう。

先ほどの「キャリアについての対話」は、誰でも良いわけではなく、大きく3つのプレーヤーに限定されています。1つは上司。2つ目は50~60代は3.6%しか受けていませんが、「キャリアアドバイザー」。最後に、「仕事関連の友人・知人」です。一方で「同僚」や「プライベートな友人・知人」や「家族」は、プラスには働いていませんでした。

今度は「対話」の中身を見てみると、相談の仕方もポイントです。例えば、私も「転職学」に関する本も書いていたので、たまに電話がかかってきて「何すればいいですか」と聞かれることもあります。こういった相談は「これですよ」と一方的に答えを渡すだけのコミュニケーションになり、その個人の変化適応力を下げています。

逆に変化適応力を上げる相談方法は、客観的な意見がもらえる状態であることが重要でした。「第三者からの発言」や「自分にとっては厳しい意見」などですね。相談相手から、「それってどういう意味ですか?」「それは●●とは考えられないですか?」といった少し距離感のある客観的な意見をもらえる相談の仕方をすると、変化適応力が上がっていきます。そして、自己開示の深さというものもプラスに働きます。つまり、「誰と」「どのように相談するか」が、その人のキャリアにとって重要ということが分かります。


■ビジネス領域以外での「対話」

ちょっと視点を変えて、ビジネス領域以外の「対話的なコミュニケーションの重要性」を見てみましょう。
例えば医療分野ではヘルスコミュニケーションという分野があります。腰痛や糖尿病などでもただ単に治療するだけではなく、医師が傾聴し共感をしてコミュニケーションを取っている、もしくは取っているだけでも、回復の効果がある。つまり対話が回復につながっていきます。

また、認知科学の領域では、対話は「建設的相互作用」と言われています。対話は一人で考えることと違って下記のような効果があると言われています。

例えば、人に腹を割ると相手も腹を割り返す、これを「自己開示の『返報性』」と言います。簡単にいうと、修学旅行の部屋で好きな子の言い合い合戦が分かりやすいですかね(笑)。あれが返報性です。
それから「モニター効果」と呼ばれるものです。コミュニケーションには聞き手と話し手がいます。だから、何かが伝わると考える方が多いですが、「全てが伝わりきらないからこそ別の案が生まれる」がコミュニケーションの核心に近いといえます。
つまり、変化適応力のベースとなる「目標」や「自分がやりたいこと」などの主体的な意思を創発させる場合、個人に閉じた思考でずっと考えても効果的ではない。少なくともダイアログ(対話)と組み合わせて、実施することによってよりモノローグが効果的になります。


■日本人は「創発的な対話」ができない

しかし、残念ながら上記のような創発的効果のある対話を日本人は放っておいたらやりません。今後も、自発的にこうした対話をする人が自然と生まれてくる国民性ではないでしょう。
その理由を世界価値観調査で見てみましょう。

日本人は初めて会う人を全く信頼しません(81カ国中、男性:77位、女性72位)。初対面から、その人と仲良くなるまで距離が非常に長い。その一方で知っている人だったら信頼するという結果も出ています。
非常に孤独な人が多く、社会関係資本が摩耗し切っています(下記「孤独な人の割合」参照)。また、年齢が上がるごとに自己開示がどんどん苦手になっていきます。

「対話」には創発的な効果がありそうで、変化適応力のひとつの重要なキーになりそうなのに、それに気付き自発的に動く人があまりにも少ない。そして、私の見立てでは今後ますます減ります。
それを放置していたら、創発的な効果に寄与することを全て投げ捨ててしまうことにもつながります。では、誰が仕掛けるのか。それは、会社側が仕掛けるしかありません。
先ほどキャリア施策で重要と話した「キャリアについての対話と思考の機会」を、定常的・連続的に会社側が設けないと変化は訪れません。

(再掲)

対話の機会を与える方法はたくさんあります。1on1を工夫したり、同僚を集めたピアカウンセリングを実施したり、自分のキャリアについて話す機会を設ける。もしくは外部サービスもさまざまありますし、Zoom やTeams など、離れた人でも話せるというツールも増えました。そうした機会の与え方の一つとして「タニモク」もあると思っています。

昨今、キャリア研修を50代から入れ始める企業が非常に増えました。しかし、下記の通り変化適応力もキャリア自律度も、50代が底。

下がりきったものを上げに行くのはかなり難しいのが実情です。そこで、定常的にキャリア対話をセットすること、そして自発的ではない形で用意する必要があります。


■まとめ

日本のキャリア施策は、選択式や手上げ式のものがまだまだ多いです。しかし、「個の意思」を前提としたキャリア施策は、切羽詰った人、もしくは元気な一部の人しか反応し続けないと思います。
それは他者に自己開示しない日本人の特性や歴史を踏まえ、再設計することとある程度のコストが必要になります。そのコストの投下先は、定常的な対話機会の創出です。
日本企業のキャリア施策のリソースの配分が最も欠如しているのはこの領域です。キャリアカウンセリングというものが注目されても20年ぐらい経ちますがまだまだ人とキャリアについて話す機会が少なすぎるというのが所感です。

▼書籍リンク

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定期的に専任のファシリテーターが実施する「タニモク」を開催しているため、興味をもった方はぜひ体験してみてくださいね。